CAREN事業の背景
アジア諸国では、自国産業の発展をリードできる高度な人材を供給する教育研究システムの構築が切望されています。一方、本学は海外からの留学生受け入れに長い歴史を持ち、高水準の教育プログラムを運用しています。これまでに輩出した留学生には、母国で指導的立場になっている方もおり、このような方々との連携を通じて、高度人材育成の場を互いに提供する基盤を本学は持っている事になります。本学と相手国大学との国際交流制度の推進は、相手国と日本の双方の産業発展に寄与し、本学のグローバル・アクティビティーを高める事につながります。
一方、世界の大学は、高度人材の国際的な獲得競争の中にあり、本学を維持するためには、これと無縁ではいられません。アジア諸国では、人材獲得のための欧米のイベントが多数見られるとともに、現地大学も、自国産業に貢献する優秀な学生を確保する激しい競争を行っています。本学の留学生数は、緩やかに増加しているものの、アジア地域の発展スピードに比べれば遅く、このままでは国際的なプレゼンスが低下していく事になります。ただちに何らかの行動を起こす必要があります。
事業の概要
CAREN(アジア人材育成のための領域横断国際研究教育拠点形成事業; Center for the Advancement of Research and Education Exchange Networks )は、アジア人材育成のために、“統合型グローバルキャンパス”を構築し、海外大学とのダブルディグリーや単位互換制度の整備、各種国際化教育プログラムの設計、新たな英語コース等のコンテンツ開発を行い、領域横断国際研究教育拠点を形成します。
研究教育拠点の形成
本学が保持する強固なアジア教育・研究ネットワーク基盤を活用するには、これまで個々の教員のボランティアに頼っていた状況を改め、組織的・恒久的かつ教育の品質保証を強化するための拠点が必要となります。留学生の受け入れ数を増やすだけでなく、既存の国際交流を深化させる、単位互換制度、ダブルディグリープログラム(*)の開設などをサポートします。
*ダブルディグリープログラム
Double Degree Program (DDP)は、学生が研究の一部を連携先の他大学の研究室でも行い、出身大学と連携先大学の2か所から、それぞれ学位を取得する制度です。多くは、関連するが異なるテーマの2つの学位論文(博士論文など)を、それぞれの大学に提出します。学位の種別、2つのテーマ選択に関する制限は、DDPごとに異なります。学生は、DDPを利用することにより、別々に取得するよりも短い年数で2つの学位を得て、自分の競争力を高める事ができます。指導教員にとっては、DDPによる優秀な学生の送り出し/受け入れにより、研究室間、部局間の高度な国際共同研究が可能となる事などがメリットです。
部局横断型の運営体制
本学の国際連携は、教員個々のボランティア(草の根的国際交流)にまだ大きく依存しています。これは取り組みの重複が生じ、関係教員の負担が大きいことから、その他のメンバーには、「一部の熱心な教員だけの活動で、労力に見合わない」と見えるかもしれません。これを解決するため、CARENは、部局横断型の運営体制により、既存の国際連携をとりまとめて効率化を図ります。これにより教職員の負担を軽減しながら、プログラム間の相乗効果も期待できます。本学専任教員による統括委員会のもと、CARENの特任教員は、既設の9つの英語コース(コアプログラム)を支援し、留学生の受け入れ能力と質を高めます。また単位互換制度やダブルディグリープログラムの新設についても、これまでの開設経験を基に強力に推進していく事ができます。
将来展開
CARENは2019年までの事業ですが、その目標は、持続的な発展が可能な研究教育プログラムを確立し、ASEAN諸国の大学とのパートナーシップを盤石なものとする事です。アジア諸国の中で、日本はもはや大きく突出した先進国ではなく、近隣諸国との対等なパートナーシップの形成により、欧米に匹敵する研究教育ネットワークをアジアに構築する必要があります。その戦略の中で、本学が持つ国際的な卒業生のネットワークが活きてきます。
CARENは、理工学分野の取り組みとして始まりましたが、アジア諸国では、日本における人文科学・社会科学分野の研究に対する需要も大きい事が判ってきました。このため、これらの分野への拡充も検討を始めています。
教職員へのメッセージ
アジア諸国の主要大学のレベル向上は目覚ましく、5年、10年前の訪問時に得た現地の知識は、今では全くと言ってよいほど通用しないでしょう。自国の厚い支援を受けた研究部門の中には、国際的な評価で本学を超えるところも多数見受けられます。世界の大学は、高度な人材の国際的な獲得競争の中にあり、本学を維持するためには、これと無縁ではいられません。優秀な人材の国際交流を促進し、それによって本学のレベルも高めていく事が必要です。
現時点では、人材交流に必要な英語コースの開設、海外へ向けた本学の情報発信などは、残念ながら十分とは言えません。CARENは、これまで教員、部門ごとに個別に行われている国際連携の取り組みをとりまとめて効率を上げ、教職員の負担は軽減させる取り組みです。ご理解とご協力をお願いいたします。